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LAギターワークス
「ゴールデンシティー」
「ディストゥネイション?」
ペイントの剥げたイエローキャブの冷たいシートに腰を沈める間もなく運転手はバックミラーを覗きながら無愛想に言った。
「チャイナタウン」
精一杯に旅なれた風を作りながら僕は言った。
サンセット通りから10番に入り幾重にも重なるフリーウエイを抜けるとドジャー・スタジアム、チャイナタウンのサインが見えた。
チャイナタウンの外れにある広東飲茶「ゴールデンシティ」・・・僕は昼飯はほとんどここで食うことにしていた。
昼飯を一緒にと、約束をしていたトオルと、トオルの奥さんの由美子は先に来て円卓に並び、透は好物のバドの小ビンを水代わりにラッパのみしていた。
「ハイーーーイ、ナベさん、ここここ」
トオルは中腰になり手を振りながら僕を呼んだ。由美子も愛好を崩し手を振った。
「穴場だね・・・俺も知らなかったよ此処。ねっ、由美子」
「そう・・・去年ジョーが帰ってきた時に初めて」
透はもう15年ほどLAに暮らしている。大学を卒業して当時の流行だったんだろうか、某ギターメーカーに就職しひょんなことからその会社を辞め、LAでギターのリペアーショップをやっていたジョーに乞われて此処に来たのだと言う。
由美子はUCLAへの留学で透より1年ほど先に此処に暮らしていた。二人は高校時代からの同級生でその時からのつき合いだとと笑いながら話した。
「ナベさん・・・飲むでしょ」
由美子の呆れ顔を他所に・・・
「エヘッ」
と、トオルは相当きつい日本語訛りの英語でウエイターにバドを2本オーダーした。
「チョッとパーキング見てくるね」
由美子は慌てるようにして席を立った。
「最近うるさいんだここ。チョッとでもタイムオバーすると直ぐにチケット挟んでくんだから」
罰金は20ドル。もっとも警察ではなく市の交通保安官なんだと言うから面白い。
「日本のパーキングメーターの時間超過は警告だけだけどね」
「でもここは駐禁はあんまり無い・・・道広いし」
と、笑った。
「向かいのパーキングに入れてきたから」
由美子は席に座るとコークを一口飲むとつぶやくように言った。
「あのパーキングやばいのよ・・・この間なんて友達の車タイヤ盗まれてるの。しっかり外されて」
「まさか、俺たちの車は大丈夫だろうけどね・・・200ドルのワーゲンだもの」
クックック・・・と透は悪戯っぽく笑った。
ウエイターは無愛想に料理を並べる。
ワンタンヌードル、チャイニーズブロッコリーのオイスターかけ、それにチャ―ハン。
「あっ、あたし・・・焼ソバにして。どうもこの蝦卵麺、駄目なの」
由美子はウエイターを呼ぶとなにやらオーダーをしていた。なんと、唸るようなネイティブな英語だ。
「凄いね・・・由美子の英語」
「あたしの英語・・・ジョーには敵わないわ、ジョーの英語凄い。アメリカ人だってかなやしないわ」
「俺の英語でさえ、此処じゃあフォーマルだからね」
トオルは笑いを堪えるようにして言った。
「LAはほとんどが出稼ぎ。元々ここ自体がスペイン語だし、それに同じアメリカ人でも移民だからね」
「そう、東京で東北の人が、関西の人が、博多の人が、標準語話すようなもの。別に通じりゃあいいのよ、通じりゃあ」
由美子はすっかりアメリカ人風に方をすぼめウインクをしながら「クッ」と吹いた。
ワンタンヌードル
僕は決まってワンタンヌードルのエキストラをオーダーした。
香港にやはり楽器の仕事で十数回は往復していたのでその時以来その広東風「ラーメン」の虜になっていた。それは確か「蝦卵麺」とか言って、乾麺で香港では何処のスーパーでも売っていた。
元々麺に味のついている日本で言えば「チキンラーメン」のようなものなのだ。
それに蝦シュウマイと言うか蝦餃子のようなものが所謂、ワンタンであった。
ぼくはそのワンタンヌードルにその店オリジナルの「辛油」をたっぷり入れる。それに、オイスターソースの掛かったチャイニーズブロッコリーをトッピングして食べる。これが、なんとも言えず美味いのだ。
「ナベさん・・・これ嵌るよね」
トオルは3本目のバドを空けながら独り言のように言った。
3人とも無口になっていた。由美子は由美子で山盛のチャーハンを既に平らげようとしていた。
香港でもそうだが大衆食堂のはチャーハンでも野菜炒めなんかでも一人前、日本の中華料理店の倍は少なくともある。
まあ、アメリカは別に中華料理店だけではなくてもファミレスなんかでも大体が馬の餌のように出てくる。
アメリカ人・・・甘いもんであろうが肉、ハンバーグであろうがその勢いで食らうのだからデカイわけである。
いや、大きな声では言えないが、小錦や曙は珍しくはない。兎に角本場のアメリカ人は「デカイ!」。
日本人と来た日にはほとんどが「ピグミー族」。しかし日本人、それは勝手にそうコンプレックス感じているようだ。
こちらに住み着いている日本人、意外とそんなデカイ相手に結構堂々として、そんなのを従えているのを見ることも暫し。
どうやら小さいの、デカイの、コンプレックス偶に来る僕等日本人だけのようだ。
「ナベさん、ジンボのところ寄るんでしょ」
「悪いな・・・ついでに寄っていてくれる」
ジンボはサンセットの「ブギ―ショップ」でセールスマネージャーをしていて、昔はシェクターのセールスマンだった。金髪で、何処となくボブ・ホープの若かりし頃を思わせる面白いアメリカ人。
そのジンボ・・・僕より背が低いかっこいいアメリカ人なのだ。また愉快なことにジンボの彼女、彼より10センチほどデカイ。それでもジンボ、やはり堂々と従えているからさすがアメリカ人だと感心する。
トオルの運転するワーゲンはスカスカ言いながら10番のフリーウエイをサンセットブルバードに向かって入った。
「大丈夫、トオル・・・」
由美子は心配そうに言った。
トオルも僕もバドを3本づつ飲んでいた。
「大丈夫・・・ノンアルコールだからね」
トオルはおどけた仕種でバックミラー越しに僕にウインクした。
〈すっかりアメリカ人になっちまったな・・・トオル〉
僕はそう心の中でつぶやきながらバックミラーに向かって笑った。
カーラジオのカントリーが心地いい。僕は車の窓を前回にして、LAの風を思いっきり吸い込んだ・・・
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