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「トム・アンダーソン」
トム・アンダーソンは七〇年代の後半に一瞬にしてアメリカのエレクトリックギターシーンを塗り替えた「シェクター・ギター・リサーチ」のギタービルダー。
元々はプレイヤーだったのだがシェクター設立を機にビルダーに転進したようだ。
現在は自社ブランド「トム・アンダーソン」のエレクトリックギターの製造とOEMでアメリカ国内のエレクトリックギターのネックを生産している。
実は当時アメリカではシェクターは休眠状態だった。
シェクターは日本ではムーン・コーポレーションがディストリヴューターとして「シェクター・ジャパン」を設立し、一九八〇年代初頭に積極的に日本のLM市場に売込みアメリカでの爆発的な人気もあって、シェクターサウンドは日本でも一世風靡をした。
当時の若手スタジオミュージシャンを中心に多くのギタープレイヤーがこぞってシェクターを弾き出した。
と言うのも当時人気のTOTOのスティーブ・ルカサー、そしてリッチ―・ブラックモアーと言ったトラッドなロックミュージシャンもシェクターをモニターしていたからだった。
時は昭和六〇年(一九八四年)全てが嵐のように去った後のことだった。
「ユー、明日トム来るから原山さんまで頼むな」
ジョーが受話器を置くとバリトンがかった英語訛りの日本語でせわしなく言った。
〈ジジッ、ジッ、ジジッ・・・〉
ファクシミリがゆっくりと時間を刻むように、さも・・・アメリカから送ってるんだぜと言わんばかりに重々しく大袈裟そうに音を立てていた。
それはオジーオズボーンのヘビメタの隙間を縫うようにオフィスに響いている。
パーテーションで仕切った向こう側では「BS楽器」のリペアールームから独立したての茂木ちゃんが大阪の問屋「ランズ」への注文品を徹夜で組込んでいた。
「茂木ちゃん。締め十日だから頼むぜ」
ジョーはいつものようにデスクに足を放り投げると頭の後ろで手を組みながら言った。
「箱さん・・・厳しいからな締め一日でも過ぎるとうるせえんだ。佐川、間に合わなければナベ・・・松本周りでな」
箱さんとは大阪でLM、主にエレクトリックギター関連商品を西日本に卸を展開するランズコーポレーションの社長。若い社員を5人ほど抱え結構手広くやっていた。
どうやらジョーは最初からそのつもりらしくトムのスケジュールもそれに合わせて作っていた。
茂木ちゃんはこの仕事を済ませたらロサンゼルスでジョーの経営するリペアショップ「LAギターワークス」に行くことになっている。
「ナベさん、スンマセンが明日秋葉に言ってオイルコンとセラコン、抵抗、適当な数買って来ておいて下さい」
「えーっ、もう終わっちゃったの?」
「だって、最初からそんな数無かったですよ」
「じゃあ、朝、三宅さんが来たら買ってきておくよ」
「たのんまーす」
茂木ちゃんはお気に入りの「タワー・オブ・パワー」をラジカセで聴きながらコンプレッサーをうならせてドライバーを当てていた。
「ナベさん、やっぱ…送るのトムん所に」
「だな…、背に腹は変えられねえし」
ファクシミリはもたついた音を立てながらLAに送信を続けている。
「原山さん、よくOKしたね」
「いあや、未だ完全にOKしたわけじゃあねえんだ。それで、明日、トムを連れて松本へ行くって言うわけさ。本当のところ原山さんよりも磨きの花岡さんの方が受けてくれるかどうか心配なんだ」
「磨き、一番気を使うからね。ネックなんか磨きで決まっちゃう感じだしね」
と、茂木ちゃんは言うとまたエアードライバーを回しはじめた。
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