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ヴァンナイズ

 

「ナべさーーーん」

と、トオルが僕を呼んでいる。

〈なんだろう・・・〉

と、僕は訝りながらも「由美子、言ってみる」と言った。

「いいわ、あたしここで待ってる。言ってくれば、なんか面白いもんがあるんじゃないの」と、言って「ククッ」と、笑った。

「ナベさん、ナベさん・・・・彼」

と、トオルはリビングでギターを弾いている青年を呼んだ。

「マイク・・・マイクちょっと」

マイクと言うのだろうか、その青年はスッと立上ってニコニコしながら・・・・・

「僕、マイク・・・あっ、コウマと言います」

と、手を差し出し握手をした。

「彼、今、ここのダニーのバンドでギター弾いてるんだって」

トオルの客、ダニーは出かけて留守のようだが、直ぐにもどるのだ言う。LAに来て5年。MIにギター留学をしたと言って自己紹介をしてくれた。

しばらく色々話をしているうちに、彼、コウマ君、黒人のファンク系のバンドの間ではそうとう売れているらしい。

それよりも何よりも驚いたのは、そのコウマ君、僕と同郷なのだった。

「コウマ君、出身は何処なの」

「僕ですか。僕は前橋です・・・前橋って知ってます。東京から山の方へ、群馬の。群馬ったって知らないですよね、前橋」

と、「へへっ」と笑った。

「ホント、驚いたな・・・知ってるも知らないもないよ、僕、高崎だよ、高崎」

「エーーーッ、ウソーーーッ、ワオーッ」

と、コウマ君の方がびっくり。

「じゃあ、ダストボウル・・・」

僕が、そう言いかけた瞬間・・・・

「榎原さん、榎原さんとこでしょ、知ってますよ、知ってる、知ってる、知ってるなんていうもんじゃないですよ」

僕もまさかLAで、前橋の、しかも僕の大のお得意さんのお店をよく知ってるなんて驚きの連続。

「高校で、ギター弾き始めて、ずっと、榎原さんとこ、ダストボウルなんです。シェクター買えなかったけど、高すぎて。でも驚きですね・・・ホントですか」

未だ信じられない様子のコウマ君。トオルも驚いていた。

「しかし世間狭いね、いや、世間と言うより世界かな・・・」

ブザーが鳴った。

「あっ、ダニー戻ったみたい」

と、コウマ君ドアロックを外しに行った。

トオルと、コウマ君、ダニーなにやら驚きを交えた風で話をしている。

「ハーイ」

僕はダニーと握手をした。デカイ、190センチくらいある。僕もトオルも精々が165センチ、そのコウマ君も同じようなもの・・・・・

「今、彼のバンドでギー弾いてるの」

と、コウマ君は言った。話は尽きない・・・

「明日、ライブがあるんだ。良かったら来て下さい」

と、コウマ君、トオルと僕にそう言った。  



奇遇も奇遇

「ナベさん、驚きだね。まさかだよ」

トオルはダニー頼まれたリペアベースをピックアップするとワーゲンのトランクに押込みながら言った。

「僕も15年LAにいるけど同じ町のやつに会ったことは今の今まで一度も無いよ、しかもダストボウルとはね・・・」

トオルは「ダストボウル」を知っていた。

と言うのも、ジョーがノーマンところのヴィンテージ・・・・・ストラトの64年プレCBと、テレキャスターと命名される前のノーキャスターをダストボウルの榎原さんに売っていたからだ。

ノーマンズ・レア・ギターズから日本向けに出荷されるヴィンテージは必ずLAギターワークスのトオルが調整していたからだった。

「ナベさん、あれいつごろだった」

僕が何のことだろうと思っているとトオルは続けていった。

「ほら、ジョーが『ノーマンズ・フェア』をやるとか言って100本近く日本に送ったよね。まいったなあの時は」

と、トオルは思い出すようにため息をつきながら言った。

「ああ、リヴォレでやったやつね。俺たちだって日本で大騒ぎだった。未だ恵比寿にいた頃だからね」

「あたしん所だってパニックよ、なんてったってあんな中古ギター、全部で30万ドルくらいよ。トオルなんて、3日間も徹夜。あの後2週間は何にもしなかったわね、トオル」

「コッチも大変だったよ、何しろジョーは嵐のような奴だからね。バーーーッと来てバタバタっと仕事をして、『じゃっ、ナベ頼むな』がいつもだものね」

「ノーマンズレアギター」はLAのダウンタウンから20マイルほどのレシダ市のほぼ中央にある。レシダ市とは言ってもちょいと大袈裟に言うと、昔の西部劇に出てくる様な街並み。そのタンパアヴェニューとサティコイのクロスの角にノーマンズレアギターズはあった。

「LAギターワークス」はそのノーマンズレギターズからダニーの店、古本屋をおいて3軒目に、日本風に言うなら間口2間ほどの小さなショップ兼工房。その隣がピザ屋でトオルは時々テイクアウトして奢ってくれた。

由美子はシャーマンオークスのモールで買物をすると言うのでに2時間くらいで迎えに行くということでウォルマートのエントランスで降ろしてきた。

トオルはワーゲンを工房の裏口に寄せると言った。

「トオル、すげえな」

「そうだよ、ナベさん。ここで塗装もやってるんだ。ほら、バスルームを改造してね」

カリフォルニア州の条例で3年程前からちゃんとしてブースを設置しないと塗装はできないのだと言う。環境問題というやつだと言う。それに健康問題で保健関係の役所が相当うるさいのだ言った。

そう言いながらトオルはきちんと整頓された工房に入ると山積みになっているリペア預かり品を古い順から整頓し始めた。
 さすがリペア歴15年。しかも本場アメリカでの「リペアマン」ほとんどのメーカーの冶具が揃ってる。厚手の絨毯のようなものが敷かれたリペア台には「ポキン」とほぼ真ん中から折れたギブソンの330がトオルの手術を待っていた。

「トオル、最近はどんな人がきた・・・・・有名人」

僕はクランプでしっかり固定されたリペア途中のマーチンを撫でながら言った。

トオルはもう日本には3年帰ってないと言っていた。日本の音楽、楽器事情もだいぶ変っているから日本のことはよく分からないが、LAでレコーディングするミュージシャンのギターのリペアもけっこう頼まれるらしい。ハリウッドのギターセンター経由で。

「日本から持ち込んだギターコッチに来るとコンディション愚図愚図になるからね。もっともミュージシャンはレコーディングにはオールドを使うしね。みんなスゴイの持ってるよ54年のストラトとか」

「ナベさん、それそれ・・・ディランのマーチンだよ」

突然とんでもないことを言い出すトオル。

「ディラン・・・・・」

僕は半信半疑でそう言った。

「ネックのリペアなんだ・・・反りのね」

「おいおい・・・トオル、ディランてあの『ボブ・ディラン』なの」

「そうだよ」

と、何気ない。

「ノーマンの所はいろんなミュージシャン来るよ。彼の所リッペアもやってるって言うことになってるし、もちろんやってるのは僕だけどね。ベックも来たし、ジョージ・ハリソンも来たよ」

そう言えばノーマン・・・・・・いつだったか自慢そうにいろんなミュージシャンと一緒に撮った写真見せてくれたことがあった。

「ノーマンもそれを売りにしてるからね」

と、トオル、笑いながら言った。

「そうそう、リヴォレの時にノーマン、ジミヘンが着ていたというボロボロの皮のコート・・・・これ置いていくから売ってくれ、2千ドルでとか、言ってたもの」

「あっ、あれ・・・・あれはダニーのものなんだ。ノーマンとダニーいいコンビだからね」

トオルはそう言いながらリペアの段取りを済ませ・・・・・
「ナベさん、ダニーの店寄ってみる」
 と、言った。

ダニーの店は「中古ギターアンプ専門」のショップ。ノーマンレアギターズのノーマン・ハリスと同じで大柄な典型的な西部のオヤジ。

ダニーはベトナム戦争に従軍して、本人から聞いたわけではないから確かではないが、いわゆる「フラッシュバック」と言うのかベトナムでは散々な体験から、一般的には「変人」と思われているとトオルは言っていた。

1946年生れだとかだから僕よりも3つ上。ノーマンもそうだが、まさにウッドストック世代、ドラッグ世代だろう。

「ダニーはねアンプのリペアもやるんだ。とにかくノーマンの店を訪ねてすごいミュージシャンがここには来るんだ」

と、得意げにトオルは言った。

ここ、オレンジ郡一帯では小さなギターメーカーが数件と、それぞれそんな所から独立した工房がいくつもあった。
 トムアンダーソン、ジム・タイラー、ハーモニックスデザイン、ベルベットハンマー。日本で言えば団塊の世代だろうか、ちなみにここではベトナム戦争世代とでも言うのだろうか・・・・・

とにかく、ここヴァンナイズ周辺典型的なカリフォルニアの田舎町。

街並みも閑散としているし、人も少ない。

そんな田舎町に僕の「エレキ一代記」の原点を見つけたような気がした。


  

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